校長からのMessage

 戦後日本は極度に物が不足していた時代からわずか十数年で立ち直り、大量生産大量消費の時代に突入しました。これは確かに大いなる国家国民的偉業であり、その偉業を成し遂げた先達の功績と情熱とを称えるに惜しむところはありません。経済上の大量生産は社会生活上の多様性の時代につながり、多様な価値観を尊重する社会が到来したわけです。それは精神的にも個がきらめきを放つ高次な社会であり、豊かで活力にあふれた社会でもあります。

 しかし、さらにそれから三、四十年の歳月が経過した今日、全体性を見失った個が無軌道無節操無秩序に動き出し、それが社会の諸相に負の形で顕在化し始めてきたのは事実でしょう。昨今の、暗澹たる思いに駆られる諸事件・諸問題の深層をのぞきこむ時、そこには、確たる価値観を喪失してしまった現代日本人の身勝手あるいは焦燥感というものが、また、極めて希薄な人間関係しか構築しえない現代の社会環境の中で必死にあがき回る人々の姿が見え隠れしているように、私には思われます。そう考えると、私たちは今なお戦後の歴史の功罪の中に生きていると言えるのだと思います。そして、次代を担う若い生徒には先達がやり残した問題を解決する責務、否、使命があるのです。

 平成22年4月、東京都市大学等々力中学校高等学校は校名変更に続き共学部を発足させ、全く新しい学校として出発しました。そして、その教育理念はもちろんこの使命を立派に全うできる生徒を育てることにあります。変転して止まない現代社会にあっても、なお不動の一点を見つめて生きることのできる若く有能な生徒を育成したい、その不動の一点こそまさに、「ノブレス・オブリージュとグローバルリーダーの育成」なのであります。

 ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)――気高く生きる者たちの責任と務め、この精神こそ戦後私たち日本人が豊さや物質的な繁栄の陰で忘れかけていた美徳なのではないでしょうか。何も西欧の騎士道や日本の武士道精神などを持ち出さなくてもよいのです。困っている人を見たらそっと手を差し伸べる温かい心、たとえ疲れていても若いがゆえに座席を譲るちょっとしたやせ我慢、己に対する相手の思惑を忖度する前に自分の方から相手に対して心を開く勇気、弱い者いじめを卑怯卑劣な行為として嫌悪する倫理観、困難を前にしてたじろがない強い精神、己に非があれば素直に認め頭を下げる潔さ、こうした数々の品性を養うことが、現代の混迷を救う端緒となり世界の人々から尊敬されるもっとも重要な資質になるものと私たちは固く信じています。

 東京都市大学等々力中学校高等学校での6年間あるいは3年間は、仲間と共に広く英知を求め、それらをやがて国家社会や国際社会のために振り向けようという尚い志をもって高潔な人生を生きる、そのための研鑽の期間です。勉強も思いっきりしようではありませんか。もちろん、部活動に励んで集団生活を学ぶことも苦しさに打克ち勝利の喜びや敗北の悔しさを知ることもとても大切です。グローバルな視点を養うための国際教育プログラムも体験しましょう。「命の育み」プログラムで菜園作りもあります。理科の実験プログラムも充実しています。全力で学校生活を送ろうする熱い心の生徒に対し、高い進路目標の実現と高潔な人生を保証すること、これが私たち都市大等々力中高の責務、否、「使命」と心得ています。